彩色 (さいしき) に限らず修理修復の過程で、過去の作業具合が見えてくることがあります。
外陣欄間に関する記録が残されておらず、果たして数十年前なのか百年前の仕事なのか不明ですが、古い彩色を落とす過程で過去に修復された跡を見つけることができました。
中央欄間、龍の洗浄前
苛性ソーダによる洗浄後
群青の彩色の下に朱の顔料が見えます。
階層としては胡粉下地に朱顔料、その上に胡粉下地が施され群青の顔料となっています。
水彩など半透明絵具であれば青の下に赤などの反対色を塗り色の深みを出すこともありますが、不透明絵具である顔料の場合は反対色を塗り重ねる意味がありません。(同系色を塗り重ねてムラをなくす程度)
しかも胡粉下地を間に重ねてあるので、過去に彩色修復を施されていると考えて良いでしょう。
決定的な部分としては、彫刻木地の虫食い部分の上に被せるように彩色してある部分があることでしょうか。
つまり、前回の彩色修復は、さらにその前の彩色を落とさず行なっていることになります。
文化財補修などは古い彩色を生かす”現状維持”が命題ですが、このように古い彩色の上から覆い被せて塗り固めるということはありえません。
想像するに、前回彩色補修時点で虫食いが発生しており、古い部分を落とすと作業工程が増えるので、覆い被せてしまったというものではないかと推測されます。
さらに想像すると、前述の朱顔料部分、通常彩色としては朱で塗る部分ではなく、元は彩色の無い素地のままだった彫刻を、後に素人絵師が彩色したのではないかと。さらに後に、それが変だったので、本職彩色師が上から塗り被せたのではないかという推測もできますね。
長栄寺がこの地に寺地移転して350年。欄間彫刻はそれ以前からあったのか、それ以降のものなのかわかりませんが、いずれにしても昔々の仕事です。
とにかく、今回の補修でも同様に木地に触らず、古い彩色の上から下地で塗り被せることができなくはないですが、彩色そのものが弱っている状態に加え、虫食いの規模的にこれを行なってしまうと彫刻が全体的に潰れた感じになるので選択肢に含めませんでした。
左右の欄間についてはこちら。
欄間修復:古い彩色を落とす【鳳凰/左】
欄間修復:古い彩色を落とす【鳳凰/右】