今回の作業記録は9月〜10月半ばにかけてのもの。欄間仕事にかかりっきりとはいきませんが、順調に進んでおります。前回の下地に、五分消し黒を塗り、金箔を。
金箔を押す部分に箔下五分消し(半つや消し)を塗る。金箔の下に塗る塗料の艶が金箔に影響するので、半つや消しぐらいのほうが金の光が抑えられ安っぽさがないです。一週間ほどしっかり乾燥させ、薄めの箔液(金箔の接着剤の役割)を塗り、さらに綿で拭き取る。せっかく塗ったのに拭き取る?この拭き取り具合でも金箔の仕上がりが変わってきます。パッと見塗ってないように見えるくらい拭き取ります。
ベビーパウダー等で手や道具の油分をとり、箔を押す部分に合わせて金箔をカットし、箔箸で一枚一枚押していきます。カットせず金箔一枚ばさっと押せば簡単なのでは?と思うかもしれませんが、金箔は非常に薄いので押す面のわずかな凹凸で割れ(破れ)てしまいます。その割れをまた金箔でふせていくことになり、結果的に二度手間になるんですね。
金箔を貼ることを『箔押し』と言う理由は、この真綿で金箔を押して密着させていく作業からと言われています。優しく、しっかりと。
最後に余分な金箔を落とし、出来上がり。
という作業を繰り返しながら全面に金箔を押していきます。
金箔押しというとちょっと高尚な技術っぽいですが、彫刻物の金箔押しは初心者でも割と簡単です。多少失敗しても目立ちませんからね。平面の場合は、均等に押された金箔の継目も美しさの一つなので、慣れと向き不向きがある気がします。金箔の接着材でもある箔液も、彫刻の場合は薄く溶いて塗るだけですが、平面物は薄めず擦り込み、さらに三段階に分けて拭き上げるので、手間と拭き上げ具合に感覚的な慣れが必要です。
金箔を押していない部分は彩色を施す部分。金箔部分にも塗りつぶされる部分がけっこうあります。
欄間一枚あたり、使用金箔200枚といったところ。
10月12日と13日に、柳川まちかどミュージアムというイベントの一環で、欄間の金箔押しの実演を寺院本堂にて行いました。金箔押しの工程を興味深く見ていかれる方、いろいろと質問をされる方、金は塗ってあるものだと思ってらっしゃった方、自分にとってはいつもの作業も、見たことがない人には珍しいものなんだなと新鮮でした。(今回の作業記録はその時の質問を元に書いた次第です)
近年の既製仏壇のほとんどが輸入品ということもあり、ほとんどが金系塗料の吹付け塗装になってきています。これからは文化財補修など非常に限られたシーン以外での金箔押しの技術は急速に失われていくでしょう。それも世の流れ。今回の実演は良い機会をいただけました。
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左右欄間についてはこちら。
欄間彩色:金箔押し【鳳凰/左】
欄間彩色:金箔押し【鳳凰/右】