下段薄引き出しは、具足を置く場所として使うこともあるので、花立(花瓶)の水をこぼしてしまったり、火立(ろうそく立て)のロウを落としてしまったりと痛みやすい場所でもあります。
特にベースがMDFボードだと作り直すしかないです。MDFボードとは木質繊維の成型板で、木というよりも紙に近い性質です。直接水気を含んでしまうと膨張して元に戻りません。
戸裏の金箔部分も、花立の花が当たったりして箔が擦れやすい部分。金箔部分の表面にクリア塗装を施す加工もありますが、金箔の持つ良さ(号数)は失われると思います。極論すれば金箔である必要がないといいましょうか…。
初期量産型仏壇によくあるのが、宮殿から中段まで一体型にして、裏から差し込んで組み立ててあるもの。このタイプにありがちなのは、一体型にするために接着剤を多用してあること。
例えば昔ながらの仏壇は、宮殿からのびる小柱は差し込むだけですが、一体型の場合は接着剤で固定させてあることが多い。虹梁などの飾りはもちろん、中段、須弥壇、上段も固定させてあることもあり、分解時に木地を割らざるをえない場合もあります。
上台輪から長押を通る大柱も、ホゾ組みではなく、後ろから釘打ちしてあるだけなので、再び組み立てる時には補強が必要。ホゾ組みのほうが分解時に木地に余計な傷をつけずに済むわけですが…。
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毎度の塗り替え箔押し作業を経て、組み立て。引き戸の奥が紙貼りだったので、剥がしてエンジに。
上段はボード、彫刻類は全て樹脂。どちらも経年劣化の影響を受けやすい材料ですが、60〜80年代当時は全国的に仏壇不足で、仏壇製造の現場にも作業性の高い新材料が続々導入されています。高度成長期の仏壇不足には、核家族率上昇や、炭鉱地などの新経済圏への爆発的な人口流入などの影響があると思うのですが…またの機会に。
MDFボード・樹脂の新材料ですが、経年劣化の耐久性が疑わしい場合は木彫への作り替えをおすすめします。今回は大丈夫と思えたのでそのまま使用しました。
蒔絵はそのまま。金具は総メッキ直し。下段薄引き出しは前述の通り作り替えました。
仏壇は様式が決まっているので、出来上がってしまうと同じようにしか見えませんが、組み方や材料は、時代や地域で様々。ただ、仏壇自体の良し悪しは材料だけにあらず。伝統的な方法がすべからく良いかと言えばそうでもありませんし、盲信的に漆というだけで有難がるのもどうかと思うことも多々あります。
今回塗り替えたものは、ご同居なさる新築の家に納めるものでしたので、また数十年後に洗濯なり塗替えなりをなさる機会が訪れるかもしれません。後の職人さんが分解しやすいように不要な接着固定は少なめにしました。そうして次世代に引き継いでもらえたら幸いです。
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